2006 Jリーグ 第6節 清水エスパルスvsガンバ大阪 (前半)

【清水・G大阪のシステムと戦術】
今節の清水は、右サイドバックの市川大祐に代わり森岡隆三、マルキーニョスに代わり大卒ルーキーの矢島卓郎をスタメンで起用した。それ以外は今シーズン変わらないメンバー。試合前の練習を見ていれば、マルキーニョスが外される理由もよくわかった。シュートが枠に飛ばないのだ。見るからに力み過ぎている。力みを焦りを生み、焦りが更に力みを生む。まさに負のスパイラルに突入している感じだった。市川に関しては、休養を与えることと、サイドバックのバックアップ要員を同レベルにしておきたいということもあったであろう。個人的には、市川が中途半端なプレーに終始していることが気になっていたので、森岡にするべきだと考えていたので、良いタイミングだと思っていた。それは清水のチーム事情から判断した結果の考えだが、G大阪の左サイド(清水の右サイド)が家長昭博だということは考慮していない。森岡のような間合いを取るディフェンスは、家長にとっては自由を与えていることを意味する。G大阪下部組織から輩出された選手の中でも最高傑作と称される彼に、自由を与えてはいけなかった。

G大阪は日本代表の宮本・加地・遠藤は出場させず、システムは4-4-2を採用した。去年のような攻撃的な戦術ではなく清水に合わせまず守備からという感じだった。GKは藤ヶ谷、加地の右サイドバックには青木良太、センターバックに山口智とシジクレイ、左サイドバックに家長、ヴォランチはG大阪のダイナモ橋本英郎と守備的な松下年宏、左サイドハーフに二川孝広、右サイドハーフに前田雅文、FWは、マグノ・アウベスとフェルナンジーニョを起用。遠藤という稀代のプレーメイカーを欠き松下を起用している段階で守備的な戦術でくることが目に見えてわかった。現状の戦力、相手の戦術を考慮すれば、こうするしかなかったかもしれない。フェルナンジーニョとマグノ・アウベスがいれば、一発のカウンターで得点することは充分に計算できる。下手に中盤を作ろうとすれば、清水のプレスの餌食になり兼ねない。”逃げ”ではなく、勝利するための選択だったであろう。


【家長昭博という才能】
キックオフ早々に、G大阪山口のバックチャージで矢島がグラウンドに倒れた。このプレーで山口にはイエローカードが出たが、清水には特に問題がないと思っていた。少なくとも後半が始まる前までは…。清水はいつもと同じように高い位置からプレスを仕掛けてボールを奪い取り、終始押し気味に試合を進めた。前線にはチョ・ジェジンと長身でスピードのある矢島がいて、左からは藤本淳吾、右からは兵働昭弘と森岡が起点となり、中央から枝村匠馬が飛び出す形で攻めたてた。チョ・ジェジンのシュート、枝村の突破から角度のない位置からのシュートは非常に惜しかった。やはりG大阪の急造ディフェンスラインとヴォランチでは止めることが難しかった。清水のフィニッシュの精度が悪かったことに助けられたものの、失点するのは時間の問題だと思われた。攻撃は懸念されていた中盤が構成できない上に、なかなかFWにボールが収まらない状態だったため、リーグ最小失点の清水から得点を奪いそうな雰囲気は無かった。

この完全な清水ペースの試合を打破したのは、「メッシ以上の素材」(by 西野朗)の家長だった。G大阪の作戦なのかわからないが、ゴールキックでは清水の左サイドに全員が寄ることで、清水の右サイドを空けるようにしていた。清水の守備意識が左サイドに集中すれば、右サイドを家長に使わせることができる。ドリブル突破が武器の家長は、ハーフウェイ付近ではシンプルにプレーをする。ひとつ前のポジションにいる二川に簡単に預けて前に出る。ドリブルのキレも素晴らしいが、パスも非常に丁寧だった。特に感心したのは、スペースに出すパスの距離感だった。行き過ぎることもなく、相手が触れることもできないポイントに柔らかなパスを供給していた。パスを受けた二川はキープ力が抜群なので、家長の上がりを待つこともできるし、逆サイドやFWに展開することもできる。ボールをキープすることで清水の守備は、プレスを仕掛けるので人数が集まるのだが、その状況はいとも簡単に突破された。フェルナンジーニョからボールを受けたタッチライン際の家長には、縦を切る森岡と間を突破されないように絞ろうとする兵働の2枚のDFが付いていた。この場面で対峙する森岡のスピードを考えれば縦にドリブルするのがベストだったように思えたが、家長のプレーは私の想像を越えていた。人数の揃ったDFとは、どうしても責任感も分割されてしまい、お見合い(譲り合い)をしがちである。家長が選択したプレーは、森岡の股を通すパスで二川に渡し、中央に走り出してリターンをもらうように動いた。二川もDFを背負った状態だったが、森岡が死角となり二川へのパスにDFが反応することはできなかった。二川はシンプルに走り込んだ家長にパスを返すと、家長は清水のDFの門の間へボールを運んだ。そう、清水のDFが譲り合ってしまう絶妙な位置に…。そのDFの躊躇を嘲笑うかのように、思い切り振り抜いた左足から放たれたボールは、瞬きすら間に合わないほどのスピードでゴールネットに突き刺さった。さすがに至近距離からのシュートの反応が今シーズンナンバー1の西部も触れることはできなかった。ホーム応援席側のゴールだったため、清水サポーターは静寂に包み込まれた。度肝を抜くとは、まさにこういうプレーのことであろう。清水側の応援席で拍手を送っていたのは、僕しか居なかった。普段そんなことをしたら、清水を愛するサポーターの鋭い視線を感じるものだが、この時ばかりは何も感じなかった。敵の得点だから認めたくはないだろうが、それを完全に超越したゴールだったのだろう。そして清水のサポーターの頭には、”家長昭博”の名が刻み込まれたであろう。

家長のプレーを支える最大の特徴は、背筋をピンっと伸ばした姿勢にある。パスを受ける瞬間もドリブルしている時もその美しい姿勢は変わらない。この姿勢は視野を広く確保できるため、次のプレーの選択がスムーズにできる。目がボールに行っている選手では、二川の位置も清水のDFの位置もそうだし、パスコースすら見えなくなってしまう。その全てを見ることができるだけの視野を得ているので、この驚愕のプレーを体現することが可能になるのだ。もちろんその姿勢の良さだけでなく、ボールから目を離してもコントロールするだけのテクニックも有するのだ。最初のトラップの段階で、対峙するDFが飛び込めない位置に止めることができるからこそ、視野も確保できるのだ。相手は、アジアカップで最優秀DF賞を取ったことのあるDF。あの瞬間、彼には落ち度はなかった。シュートする前のタッチの段階で寄せることのできなかったDFもミスとは言えない。家長が作り出した異次元空間に放り込まれてしまっただけのこと。たぶん、家長も清水のDFもそうだったはずだが、あの一瞬のプレーはスローモーションのように感じただろう。彼の姿勢の美しさは、日本の選手の中でトップ3に入る。ボルトンの中田英寿、鹿島の小笠原満男、そしてこの家長である。日本代表のレギュラー組に比肩する10代は、末恐ろしい才能であることは間違いない。

【西野監督の決断力】
この得点で、清水が主導権を握っていた試合を一変させたわけではなかった。清水の優勢は変わらなかった。攻撃面では家長という存在は非常に素晴らしいのだが、守備面では完全に狙われていた。しかし、ここでG大阪の西野監督がリードしているにも拘らず先手を打った。怪我をしたわけでもないヴォランチの松下を下げてDFの入江徹を投入した。前半26分の時点である。機能しないヴォランチを捨ててDFを入れたことで、てっきり4バックから3バックにシステムを変更し、家長の攻撃力を存分に発揮させるシステムとするものだと思ったが、様子がおかしかった。家長のポジションは左サイドハーフにはならず、ヴォランチの位置になったのだ。入江は左サイドバックの位置に入り、狙われていたポイントの守備を強化した。家長はもちろんだが、G大阪イレブンもかなり戸惑っていた。家長をヴォランチに使うこと自体、練習でもやっていなかったのであろう。この状況で一番気を使ったのは、橋本だっただろう。家長にポジショニングを確認させ、前めの位置で攻撃を中心にプレーさせることにした。もちろん自分の守備の仕事が増大することはわかっているが、家長の攻撃力を如何なく発揮させるようにしたのだ。突破力だけでなく、視野も広くパス能力にも長けた選手だから、この位置に入っても問題はなかった。決定的なスルーパスも出し、G大阪の攻撃が安定した。


【3分間での逆転劇 主役は矢島卓郎】
清水は、枝村の飛び出しからのチャンスが目立った。枝村が飛び出すことは、清水自体の攻撃のバロメーターとなる。この試合では珍しくパスにも冴えを見せ、ミドルパス・サイドチェンジにミスがなかった。清水は入江に代わった左サイドを尚も攻めたてた。枝村の飛び出し、森岡のオーバーラップで裏のスペースを突いていった。それを可能にしたのは、中盤の右サイドでそのスペースにボールを出せる兵働がいたからであろう。市川と違い、森岡のオーバーラップは思い切りの良いもので、必ずスペースに飛び出してクロスで終わるという形ができていた。サイドバックのお手本となる動きである。清水の攻撃はポストの長身2選手にボールをあまり当てず、サイドのスペースを使うようにした。これは開幕当初から課題となっていた形だったので、成長がうかがえた。矢島の動きに注目してみていたが、ポストプレーの後の動き出しが全くなく、ワンプレーで動きを止めてしまうのが気に入らなかった。スピードがあるならば、もっとサイドに流れてもいいと感じたし、ボールになかなか絡めていなかった。ジェジンには惜しいシーンが何度かあったが、矢島はシュートも撃てていなかった。このまま大した仕事もできず前半が終わると思ったが、残り3分間で矢島が爆発した。攻め続けた左サイドではなく、右サイドに動き出し、それを見逃さなかった左サイドバックの山西がスペースに放り込んだ。シジクレイと1対1になった矢島はエンドラインから戻るようにしてあっさりとかわし、シュート。DFに当たり跳ね返ったボールをなぜか伊東輝悦が詰め中央のジェジンに出すが、DFに触られてペナルティエリアの外にこぼれたボールを右サイドの兵働が戻りながら左足を一閃。巻いたボールが逆のサイドネットに突き刺さり同点とした。これが後半44分。これで前半が終わっても清水は良かった。しかし、これだけでは終わらなかった。G大阪が最後の攻撃を仕掛け、清水の左サイドから中央へボールを出すと、それをカットして高木和道がクリアしたハイボールをハーフウェイ付近でチョ・ジェジンがバックヘッドで流すと、矢島の真骨頂であるスピードで落下点にいたシジクレイにプレッシャーを与えた。ジシクレイのトラップが少し体から離れたところに矢島が体を入れ、あのシジクレイをふっ飛ばし、落ち着いてGKの股を抜いたシュートを流し込んだ。たった3分間での逆転劇。その主役は大卒ルーキーの9番矢島卓郎だった。

<続く>
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by neo_no14 | 2006-04-03 23:30 | 清水S-Pulse


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